麹とは、米・麦・大豆などの穀物を蒸して、麹菌という菌を繁殖させたもの。米に麹菌を繁殖させれば米麹、麦に繁殖させれば麦麹と言います。この麹菌という菌はカビの仲間なのですが、私たちがよく知っている食べ物を腐らせるカビとは違い、毒を生成しないので口に入れても大丈夫です。それどころか食べ物を分解する酵素を作りだし、穀物が持つさまざまな栄養を私たちの体に吸収しやすくしてくれる人間にとってはありがたい存在です。麹菌は日本にしか生息していない国菌とも言われていて、近年では和食の定義=麹菌が使われているか否かという説も。ずっと昔から日本人の食生活と深い関わりを持つ身近な菌が麹菌なのです。
麹は約100種類ものたくさんの酵素を含んでいると言われています。酵素というのは一言でいうと食べ物を分解する力のようなもの。麹菌に含まれる酵素は、食べ物が持つ栄養を分解して私たちの体に吸収されやすい状態まで細分化してくれるのです。食べ物をよく噛んで食べると体にいいと言われますが、これを麹菌が代わりにおこなってくれるようなイメージです。さらに、酵素の力で食べ物はおいしく、柔らかく変化します。例えば、大豆のタンパク質は分解されるとアミノ酸に、米や麦のでんぷんは分解されると糖に変わることで味噌は旨みや甘みが生まれておいしくなるし、塩麹を肉に漬け込むと肉が柔らかくなるのも、麹が持つ酵素のおかげなのです。
例えば米麹を作るときは、白米を蒸して35℃くらいまで冷ましたところに麹菌を振りかけ、温度30~35℃、湿度35~40%を6時間ほど維持して麹菌を発芽させます。発芽後、麹菌が成長するにしたがって、麹の温度は上がり、菌糸が伸び始めます。麹の温度が上がると雑菌も繁殖しやすくなるため、風を送りながら35℃を超えないように管理します。菌糸が米にまとわりつくように繁殖してきたら、米同士の固まりをほぐして風通しをよくします(一番手入れ)。一番手入れによって新鮮な空気を得た麹菌は、さらに菌糸を伸ばし始め、発熱も活発になってくるので、再び固まりをほぐして麹を冷まします(二番手入れ)。二番手入れ後は、麹の発熱によって米の表面の水分は蒸発し、米の内部にまで酵素が蓄えられていきます。そうして麹菌の育ち具合を見ながら約3日間かけて米麹は作られます。
一般的には、米味噌には白米を原料にした米麹を。麦味噌には大麦を原料にした麦麹を使います。東海地方など一部の地域で食べられる豆味噌は、大豆を麹にした豆麹が使われることも。一方、醤油は蒸した大豆と炒って砕いた小麦を混ぜた状態に、麹菌を繁殖させて醤油麹を作ります。このときに蔵の職人が大事にしていることは、穀物の芯まで麹菌の菌糸をしっかり伸ばすということ。穀物の表面の水分をできるだけ少なく、逆に穀物の内部には水分を十分保つように蒸し上げることで、麹菌は穀物の中へ中へと菌糸を伸ばしていくのです。丸秀では穀物それぞれの大きさや外皮、水分量に合わせて緻密に調整しながら蒸すことで、赤米・黒米・緑米・はと麦・あわ・ひえ・キヌアなど、珍しい穀物でも麹を作っています。
こうじには、麹と糀という2つの漢字が使われています。「麹」という漢字は中国から伝わったもので、米・麦・豆などのあらゆる穀物で作る麹のことを指します。一方、「糀」という漢字は、明治時代に日本でできた和製漢字。米から作る米こうじのみを表します。米の表面に花のようにふわふわと麹菌が繁殖している様子から、このような漢字が作られたのでしょう。「麹」が醤油や味噌、お酢や日本酒などを作るための原料として一般的に使われていたのに対して、「糀」のほうは、原料ではなくそのまま販売される最終製品という意味合いで使われることが多いようです。
味噌や塩麹、甘酒以外にも、麹は様々な料理に使えます。米麹はそのまま食べると芯があって固いですが、米は一度蒸してあるので軽く火を入れるだけですぐに柔らかくなります。ひじきと一緒に煮込んだり、納豆と一緒に混ぜて醤油とみりんで少し加熱したりすると、麹のやさしい甘味がプラスされて絶品に仕上がります。基本的に、液体の調味料と一緒に軽く加熱する料理であれば何でもOK!スープや煮物の具にしたり、お米と一緒に炊くだけでもお米がふっくら炊き上がります。ちなみに、麹から作った塩麹はお塩の代わりに、甘酒は砂糖の代わりに普段の料理の調味料として使っても、素材が柔らかくなったりほんのり甘味が出たりといいことばかりです。